字を書くのが苦手な発達障害の子、極端に不器用な子。立体認知が原因かも?
かばんの中の鍵、あなたは見ずに手探りだけで探せますか?
探せた人はきっと、鍵を触った感触でそれが「鍵だ」とわかるから見つけられるんですよね。
でも、発達障害の子の中には、これがとっても難しい子がいます。
そしてその子達の多くは、「字を書く」のがとても苦手だったり、極端に指先・手を使う作業が苦手で不器用だったりするケースが多いんですよね。
今日は、こういうことがなぜ起こるのか、どうすれば改善できるのかを「立体認知」という視点から考えてみたいと思います。
字を書くのが難しい発達障害の子、不器用な子を「立体認知」の視点から考える
字を書くのが難しい発達障害のお子さんは多いと思います。
原因は様々です。前回お話しした固有感覚の問題や視覚空間認知の弱さ、運動企画の弱さ、統合されてない原始反射、総じて学習障害などなど、字を書くのが難しいお子さんにはいろんな角度から原因をアプローチする必要があります。
その中で、今日は、「立体認知」(Stereognosis/Haptic)という視点からこの問題を考えてみます。
立体認知って何???
立体認知(実体感覚)、聞いたことがない方は多いんじゃないでしょうか?
これは、先ほどの例のように、「視覚の情報なしで手のひらの感覚だけで物の感覚を得られる」という認知能力で、触覚、圧覚といった体性感覚や位置覚といった運動感覚によって得られる複雑な構造の知覚なんです。(難しい話はここで終わりましょう・・・)
この立体認知によって私たちは、かばんやポケットの中から探したいものを手探りだけで探すことができるんですよ。
あと、硬貨を手のひらに何枚か持って、それを指先に移動させ自動販売機に投入できるのも、立体認知の役割なんですよ。
かばんの中の鍵を探す時、体の中でどういう事が起こってるかというと
- 物に触る
- 形・質感・温度などの情報を手のひらでキャッチする
- 脳にその感覚情報を送る
- 頭の中で手の中にある物を先ほどの感覚情報から視覚化する(頭に形を思い描く)
というプロセスを得てかばんの中の鍵を探し当てることができるんですよね。
発達障害の子の中には、このプロセスの中のどこかでつまずいて、立体認知が難しい子がいます。
そういった子たちは、ポケットやカバンから物を出す時、必ず目で確認しようとします。
またコインを片手では入れられないので、自動販売機にコインを入れる時、一方の手で残りのコインを持ち、他の手でコインを投入します。
立体認知につまずきがあるかどうか、どうやったらわかるの?
立体認知を正式に調べるにはSIPTという感覚のアセスメントを使うんですが、ご家庭で「もしかして?」と言う場合に簡易的にできる方法もあります。
- まず、袋を二つ用意します。
- 一つの袋に積み木を一つ入れ(袋A)、もう一つの袋にそれと同じ形の積み木一つと違う形の積み木を2~3個入れます(袋B)。
- 片方の手をAに入れ積み木の形を視覚をつかわず片手で触って貰います。
- もう一方の手をBに入れ、Aの中の積み木と同じものを視覚をつかわず手の感覚だけで探してもらいます。
これを何度か積み木の種類を変えたり、左右をかえたりしてやってみてください。最初は明らかに違う形から始めて、だんだん似たような形でやってみるといいと思います。
袋を一つにして、探してほしい積み木を見せて、同じものを袋から触覚だけで探すのも別バージョンです。これらができるようなら立体認知は問題ないでしょう。
コインを手のひらの中央に置き、それを指先まで片手だけで動かせるか、というのも立体認知のつまずきを調べるのに有効です。
字を書くのが難しい子は、これとは別にもう一つ指の感覚についても調べてみてください。
テーブルの上に両手を置いて目を閉じてもらい、どの指が触られたかわかるかどうか、手の甲、手のひらの両側から確認してみてください。コットンなどでそうっと触る感じです。一か所触られて正確に答えられるようなら、2か所(2本)同時に触ってちゃんと言い当てられるかも確かめてみてください。
立体認知が困難だとどうして字を書くのが難しくなるの?不器用なの?
字を書くのが難しい子・極端に不器用な子の中には、上記の積み木の検査で極端に違う形の積み木でも違いがわからなかったり、指を触る検査で、どこを触られてるのかわか
らない子がいます。私が今まで出会って一番立体認知に苦労してた子は、袋の中のペンと消しゴムの違いもわからないお子さんでした。どの指に触れられてるのかもほぼわかってない状態です。字は、ミミズを這うような線しかかけず、アルファベットは理解してるのに「書けない」状態でした。
ではどうしてこのような状態が起こるのでしょう?
これは、前回の固有感覚の鈍麻であげた着ぐるみの例と同じような事が起こっています。
鍵をカバンの中から手探りで探せる人でも、厚手の手袋をはめていれば難しくなるでしょう?
これは、手のひらの感覚で鍵を感じ取れていないからですよね。
手袋をはめたままじゃ、字を書くのも、スマホを操作するのも、何をするのも難しくなりますよね。それは、手のひらや指からの感覚のフィードバックをうまく得られていないからなんですよ。
字を書くとき、もしこんな感じで手のひらや指で「物を触ってる」感覚がなかったらどうでしょう?鉛筆を握ることさえ難しくなります。立体認知につまずきがある子は、鉛筆を握る時片手で鉛筆をてのひらの定位置にセットすることができません。必ず利き手と反対の手を使って、鉛筆を定位置にセットします。それくらい、手のひらや指を使って鉛筆を自在に動かすのが難しいっていうことなんですよね。なので、字を書くよううまく鉛筆や手をコントロールするのが難しくなります。
字を書くのが難しい子、極端に不器用な子の立体認知を向上するには?
他の感覚を使って、立体認知のつまずきを補ってみましょう
立体認知につまずきがあるお子さんには、前回お話しした固有感覚の鈍麻と同じように、他の感覚などを使って補ってあげるといいです。
例えば、袋の中から積み木を選ぶ前に、一緒に選ぶ積み木の特徴を見直します。
「これは、つるっとしてるね、角があるね、角がいくつなるかな?角と曲がってるところ、触って比べてみたらどう違う?」といった感じに、視覚や言葉での認知を使って、頭の中で物の形を「視覚化」するのを手伝ってあげましょう。
それを次は、袋の中にいれて視覚を使わずに一緒に特徴を見直してみたりして、少しずつ難易度を上げていけばいいと思います。
形だけでなく、比べる対象を変えてみるのもいいです。
ビー玉とコットンとスーパーボールといったような全く質感の違うもの、同じ形でも大きさの違うもの、温度の違うもの、重さの違うもの。好きなものを使うのもいいかもしれません。例えばポケモンが好きな子に、ポケモンのフィギュアを使えば探すのも楽しくなりますよね。
コインを使ったアクティビティ
コインを使うのもいいです。机に数枚コインを置いて、それを片手でつまんで手のひらに移動する。そしてそれを握ったまま次のコインをつまんで手のひらに移動する。
逆に、手のひらの中のコインを机に並べてみるのもあわせてやってみるといいでしょう。
セラパティを使ったアクティビティ
手のひらや指先にいろんな感覚刺激を与えてあげたり、色んな動きができたりするよう取り組むのも大切です。
アメリカの学校での作業療法(OT)や療育では、セラパティ(セラパテ)という粘土のようなものを普段使います。これは、セラピーやリハビリ用に作られたパティで色によって硬さ(抵抗力)が違うのが特徴です。手にもくっつきません。↓こちらです。
このセラパティで粘土遊びのような、ホットケーキを作ったり、おだんごを作ったり、へびを作ったりしながら楽しんで、手のひらや指先の感覚のフィードバック力をあげていくのはいいですよ。セラパティの中に小さなビーズなどを入れてそれを探してつまみだしてみたり、隠してみたり、ケーキの形を作って飾りつけをしてみたり、それをおもちゃのナイフできってみたりするのも楽しくできる感覚遊びですね。
↓セラパティの中にレゴを隠して探し出すアクティビティ
↓英語ですが、セラパティを使った手や指先を思ったように動かせるようにする為のアクティビティワークシート
シェービングクリームを使ったアクティビティ
感覚遊びでよく使われるシェービングクリームも立体認知の向上に使えます。シェービングクリームの中にいろんなおもちゃやつみきなどを隠しておいて探し当ててみたり、平たく伸ばしたシェービングクリームの上を指先でなぞって字を書いてみたり、絵を描いてみたりするのもいいでしょう。鉛筆を持って書くときのストレスがなくなって、書くことを楽しめます♪
お米:Rice Binを使ったアクティビティ
あと、アメリカでは結構よく感覚統合などで使われるんですが、Rice bin アクティビティといって、容器にお米を入れて、その中にビー玉やフィギュアを入れて見つける遊びも、手のひらや指先の感覚、立体認知を育むのに適した遊びです。アメリカではRainbow Rice というカラフルなものを使います。アクティビティがより楽しくなりますよ♪
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ヘアブラシやたわしなどを触り比べて、「こっちの方がチクチクするねぇ」などと、触覚と視覚と語彙を組み合わせて普段から感覚を言語化して教えてあげるのもいいと思います。
前回、固有感覚の鈍麻でお話しした、センソリーブラシでのブラッシングやジョイントコンプレッションマッサージも有効ですよ。
鉛筆は、短いものを使わせてあげてください。クレヨンや先の太いペン、グリップの太いペンなどは、鉛筆より書きやすいので、これらを使うのもいいかもしれません。
まとめ
字を書くのが難しかったり、極端に不器用だったりすると、漢字の書き取りのように何度も繰り返すことを強いて克服させようとしがちですよね。でも今回お話ししたように、立体認知につまずきがあったり、目と手の協調運動に問題があったり、学習障害があったりすると、「何度も繰り返す」といった本人の努力型の取り組みでは改善されず、かえって自信喪失につながり自己肯定感の低下を招きかねないんですよね。
また、やる気の問題だと思われることも多いんです。本人は字を書けないことや不器用な事ににストレスを感じ、なんとかうまくなろうとしても自分ではどうしようもない状態なんです。なので、できないことを「やる気がない」と判断したり、叱責したりすると、悪化する一方です。やる気の問題ではありません。
字を書くのが難しかったり不器用だったりする問題の根っこは多岐にわかります。なかなかすんなり解決する問題ではありません。
まずは、「難しいんだね」「大変だね」と、本人が「困ってる」ことに寄り添うようにしてあげてほしいです。そうすることで初めて原因や解決策が見えてきます。ぜひそこを出発点にしてくださいね。
今日もここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。
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