ひろげていこう 発達障害のWA!~「困ってる子」という視点からの支援~

アスペルガー症候群やADHD、学習障害、自閉症などの発達障害の子は、困らせる子じゃない「困ってる子」。その視点から困ってることを解決する支援のヒントや工夫を考え、もっと発達障害の子たちから見えてる世界によりそっていきましょう!

自閉症の人ってよく物や人にぶつかっちゃう。どうして?【固有感覚の鈍麻】

「僕にも背中があるの?」

息子がまだ幼かったころ、はじめてお風呂上りにタオルで体を拭く練習を始めた時、「背中もふいてね」と私が言った一言に息子が返した言葉です。

息子は、自分以外の人に「背中」があるのは「見て」知っていました。でも、私のその一言をきくまで、自分の背中の存在に気づいていなかったんです。それは「見たことがなかったから」。

このエピソードを思い出したのは、数日前、

自閉症スペクトラム障害の人は対人距離を短く取る - 東大などが確認 | マイナビニュース という東京大学の研究グループの発表のニュースを読んだ時です。

息子の学校では、この記事の中でされていた、

A:研究者が参加者に近付いた際にこれ以上近付かれると不快と感じる地点を知らせてもらい、

B:次に参加者が研究者に近付いた際に参加者がこれ以上近付くのは不快だと感じる地点で止まってもらうという調査

これを同じことを適切な対人距離を知るためにソーシャルスキルレーニング(SST)の一環として取り入れていました。

当時の息子は、AもBもどちらも数cmという結果でした。もう顔と顔がほぼくっついてる状態です。目は相手の目をまったく見ようとしていませんでした。今では上記のトレーニングを重ね、適切な距離を保って人と会話をしたりできるようになっています。こんな感じで、自閉症スペクトラム障害の人たちは、障害を持たない人が訓練することなしに獲得できるスキルを、丁寧にその人にわかるやり方で手に入れる必要があるんですよね。

ではなぜこういった事が起こるのでしょうか?そして、どうして息子は「背中の存在」に気づいていなかったのでしょうか?

今日は、自閉症スペクトラム障害(以下、自閉症)の人たちの、ちょっと感じ方の違う固有感覚(固有覚と表現する場合もあります)の視点から、どんなことに困ってるのか、どうすれば解決するのかを考えてみたいと思います。

自閉症の感覚の特異性をあまりご存じでない方は、こちらの 「知って下さい!自閉症の不思議な感覚の世界」をまず読んでいただけると理解しやすいです。

 

chubby-haha.hatenablog.com

 

自閉症の人の不思議な感覚の世界:固有感覚鈍麻編

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固有感覚ってどんな感覚?

固有感覚。聞きなれない言葉だと思います。これは、体で感じる感覚の一種で、みなさんが知ってる触覚や聴覚といった五感の仲間です。体の位置や体の動きの状態を感知する感覚で、主に筋肉や関節からそれらの情報を得ています。自分の体が、どんな体勢で空間の中でどこにあるのか(ボディイメージ)、そして周りの人や物と自分がどういう位置関係にあるのかを知るために必要な感覚なんですよね。

多くの人は、この固有感覚を意識することなく体をある程度思うように動かせているんですが、自閉症の人の中には、この感覚を他の人よりも強く感じ取ってしまう人(固有感覚の過敏)、逆に体の位置情報を他の人ほど感じられていない人(固有感覚の鈍麻)が多くいます。

固有感覚の感じ方が少ないと、どんなことをしちゃうの?

  • 人や物にたびたびぶつかる、さらに、ぶつかった事にも気づいていない。
  • 列に並ぶ時、必要以上に他の人にくっついて並ぶ。
  • 歩くとき、周りにある物(壁など)を触りながら歩く。
  • 飲み物をやかんから注ぐと、勢いよく注ぎすぎこぼしてしまう。
  • スナックの袋を開ける時、力いっぱい開封して、中身が散乱してしまう。
  • 鉛筆や洋服や爪ををかむ。
  • 硬い食べ物が好き。
  • 歯が削れて小さくなっている。
  • 自分で自分をたたいてしまう。
  • 人を呼ぶ時に、肩にとんとんとする場合、力が強すぎる。
  • ハイタッチ、握手が強すぎる。
  • 筆圧が濃く芯をよく折る、消しゴムで消す時に力が強すぎて紙を破いてしまう。
  • キャッチボールの時、近くに相手がいるのに、力任せに投げてしまう。
  • 授業中など椅子に座っているとき、椅子を前後にロッキングする。
  • 歩くとき、必要以上にどしどし音を立てるように歩く
  • きつめの洋服が好き。
  • 人の絵を描いたとき、ある体のパーツ(例えば腕や足)を描かない。
  • 手足を動かす時、それらを見ながらでないとうまく動かせない。

これらのことの多くは、固有感覚を感じにくい場合に起こります。決してわざとではありません。

自分の体がどこからどこまでなのかわかっていないと難しい事ばかりなんですよ。
だから「じっとしなさい」「ぼーっとしてるからぶつかるのよ」「ちゃんと力加減しなさい」って言われたって、一体何をどうしていいのかわからない状態なんですよね。

ボディイメージがつかみにくいって、どういうこと?

例えば大きな着ぐるみを着た場合、きっとうまく人にぶつからないように歩くのは難しいと思います。これは、着ぐるみを含んだ自分の体がどこまでなのかわかってないのでそうなってしまうんですよね。

自閉症の人がぶつかってしまったり、またぶつかった事に気づいてないのは、こんな感じに「自分の体がどこまでで、今どこにあるのか」のイメージを正確につかめていないからなんですよね。

また、もしその着ぐるみに小さなしっぽがついてた場合、誰かにしっぽがついてることを教えてもらったり、目で見たり、触ってみたりしないとしっぽの存在に気づけないですよね。
息子が自分の背中の存在に気づいていなかったのは、こんなしっぽのような状態だからなんですよ。

背中だけでなく、体全体が一体どこからどこからこどまでで、今自分がどんな体勢なのかつかみにくいから、列に並んだ時に他の人に必要以上にくっついてしまったり、先に紹介したような対人距離をうまくとれなかったりもします。

ボールを投げる時力加減ができないの、どうして?

また、固有感覚の情報がうまく関節からよみとれないと、行動が力任せになりがちです。そうしないと、体の位置を感じられないからです。

ボールを投げたりする時、多くの人はボールの重さを関節や筋肉から感じ、視覚情報から得た距離感などを頼りに、「投げる」という運動を企画し、それを行います。
固有感覚を感じにくい自閉症の子たちは、ボールの重さを腕から感じるのも苦手だし、腕を振り上げた時に腕が今どこにあるのかも感じ取りにくいですし、また、「腕をふる」という動作も、他の人より目いっぱい腕を動かさないと感じ取ることが難しいんです。

だから近くにいる人にはそーっと投げなきゃいけないことは頭ではわかっていても、思いっきり投げてしまうんですよね。わざとじゃないんですよ。

鉛筆の芯がしょっちゅう折れちゃう。ノートに穴が開いちゃうことも。どうして?

物を力任せに握ってしまうのもボール投げと同じメカニズムです。そーっと握っても、その「握ってる」という感覚を「感じる」までに達していないから、それを感じられるまで力を入れるしかないんです。

だから鉛筆もがっちり握りますし、字も濃くなります。消しゴムで消す時も、ギュッギュッと紙にこすりつけないと、消しゴムを持ってる、それで紙をなぞってる感覚がつかめないからなんですよね。

そわそわしてたり落ち着きがなかったり、いつも動いてるのはなぜ?

また、鉛筆をかんだり、椅子をロッキングしたりするのは、固有感覚を欲している状態です。

固有感覚を感じにくいということは、固有感覚を他の人よりたくさん得ないとそれを感じることができないという事です。だから、その感覚を得るために他の人よりたくさん動く必要があります。必要以上にドンドン音を立てて歩くのも、そうしないと足が地面についてる感覚を得られないからなんです。

ボディイメージ、調べてみよう!

ここで少し実験をしてみましょう。

  • まず、両腕を左右に広げて立ちます。(大の字みたいな感じです)
  • 両手の人差し指で左右交互に肘を折り曲げて鼻を触ってみてください。
  • これを、目を開けた状態と閉じた状態でやってみてください。

鼻を迷うことなく触れたら、固有感覚をしっかり関節や筋肉から読み取れ、ボディイメージが確立されている証拠です。

これを固有感覚を感じるのが苦手な子がやってみると、目を開けた状態でもなかなか鼻に人差し指で触ることができないんですよね。目が一生懸命指先を追っているのも特徴です。

そして、目を閉じて同じことをやるように指示しても、薄目を開けて指先を一生懸命見ようとします。目を閉じたとしても、動作を始めると同時にぱっちり目をあけてしまう子もいます。まっすぐ立ってることさえ難しい子もいます。

見えてないと手足を動かせないって、どういうこと?

こんな風に、固有感覚を感じにくい自閉症の人たちは、「視覚」で固有感覚の得にくさを補っています。

自閉症の人のよく語られるエピソードで、「こたつの中に足がある時は自分に足があることを確認できない・忘れる(足がない)」というのがありますが、これも固有感覚の得にくさからくる現象です。

それで、こういった人たちがどうやってこたつから出られるのかというと「目で見て足の存在を確認する」必要があるんですよね。 

例えば、車を駐車場に停める時、車の大きさを把握してないと、周りにぶつけないように目で見て車がぶつからないように確認しますよね。

でも車の大きさを把握してる人は、そんなに目で確認しなくても、もっとすんなり車を停めることができますよね。

こんな風に、自分の体がどこまでか把握できてるのとできてないのとでは、行動を起こす時に誤差も生まれやすいし、リソースも他の人よりもたくさん使わないといけないので、とっても疲れやすかったりもするんですよね。

固有感覚をもっと感じ取りやすくするには、どうすればいいの?

では最後に、感じにくい固有感覚をもっとスムーズに感じられるようにするには、どんな事が有効なんでしょうか。そこを考えてきたいと思います。

遊びながら固有感覚の刺激を増やそう

単純に言えば、関節や筋肉から感覚を得る経験を増やしていくことが固有感覚を統合する近道です。
特にお子さんの場合、遊びの中に、固有感覚をもっと感じられるアクティビティを取り入れるのが一番いいと思います。 

  • トランポリン
  • ボールプール
  • 硬めの、大きめの粘土を全身の力をこめてこねる
  • 動物の真似ごっこで四つん這いで歩いたり、走ったり、ボールを追いかけてみたりする
  • 手押し車でカルタ遊びや探検ゲーム
  • 雑巾がけレース
  • 力仕事。例えば遊ぶ準備をする時、重いマットや跳び箱などを運ぶのを手伝ってもらう。
  • お部屋の模様替えごっこ。家具を体を使って押すのはとっても固有感覚を感じるのに有効です。
  • ヨガや太極拳、ストレッチといったゆっくりな動きの全身運動。
  • バランスボールを使った全身遊び
  • バケツ運びリレー
  • チョークでアスファルトに大きな絵を描く
  • Twisterなんかは、他のお友達とすると社会性も育めてお勧めのゲームです。

                  

字を書く前に上記のような遊びや運動をすると、筆圧が安定しやすくなり、手が疲れにくくなります。

また、授業中そわそわ、もぞもぞしてしまう子、椅子を前後に揺らしてしまう子なんかにも、上記の遊びを授業前にするのは有効ですし、

前庭覚の弱いお子さんにも有効なバランスボールのクッション(例→EGS(イージーエス) バランスディスク ポンプ付き EG-3082)や、

机やいすの脚にセラバンドというゴムを張り巡らせたりして、そこをいつでもキックできるようにしておいたりすれば、授業に参加できやすくなります。セラバンドはこんな感じです→D&M Thera Band セラバンド 12.5cm×2m レッドカラー色によって抵抗力が違います。黄(一番抵抗力が弱い)→赤→緑→青→黒(一番抵抗力が強い)。お子さんの好みに合わせてお使いください。

下の写真は、クッションと黒のセラバンドを椅子に設置した例です。

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マッサージで固有感覚UP! 親子のスキンシップ、就寝前やパニック後のカームダウンにも!

また、センソリーブラシで体をブラッシングしたり、ジョイントコンプレッションマッサージをしたりを2~3時間に一回することで、1日落ち着いて過ごせる子もいます。

我が家では毎晩就寝前に、息子にジョイントコンプレッションマッサージとセンソリーブラシを全身にしてあげてます。これで入眠が劇的に早くなり、睡眠障害も改善されました。↓おなじみのこのブラシです。 おかげで私の睡眠時間も増えました。

 

Sensory Brushes by Clippermill

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 固有感覚を得にくい子がパニックになった時、どうすればいい?

自閉症のお子さんがパニックを起こしたとき、どんな対処方法があるのか・・・、困りますよね。

固有感覚を感じにくいお子さんは、いつも体がフワフワした状態なんですよ。なので、体に圧力、圧迫感を与えてあげれば落ち着く場合があります。

例えば、重いベスト(例→Fun and Function's Pink Weighted Vest [並行輸入品] お高いので手作りしてる友人も多いです)や重いブランケットなんかはアメリカでは学校にも常備されていますし、

量肩からぐっと体を抑え込む感じで押してさげ、「自分の体が今ここにあるんだよ」という感覚を助けてあげれば、体の中から落ち着きを取り戻せるんですよね。

息子の場合、パニックを起こして落ち着きたい時、布団をかぶったら「ママ上から乗って~!」とせがむこともよくありました。

まとめ

自閉症の人の一見特異に見える行動には、意味があるんですよね。
今日ご説明したように、感覚の視点からその子を理解しようとすると「なるほどな」と思えることが意外に多いんですよ。

たぶん、感覚の事をしらないと「人にぶつからずに歩きなさいって何度言えばわかるの!」なんて言ってしまうかもしれません。そんなことを言われ続けても自分ではどうすることもできないので、失敗の連続。そして自己肯定感が得られず、自己否定しがちな自信の持てない子にその子をしちゃうかもしれません。

もちろん、みんながみんな専門家じゃないんで、何もかもうまく困ったことに対処できるわけではないとは思います。でも、その子の視点に立って「あ~こんな事がむずかしいんだなぁ~」がわかるだけでも、関わりがもっとちがったものになってきますよね。

今日は、固有感覚の鈍麻なタイプのお話でしたが、固有感覚の過敏なタイプというのは、また全然違った「困った」を抱えています。
またそれは、次の機会に。

今日も長く書いちゃいました。ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました。