自閉症とADHDと「発達障害に違いない」と決めつけられる子供たち
発達障害という言葉を多くの人が知るにつれて
「発達障害の人ってどんなことで困ってるの?」
「どんなことが大変なの?」
という真の発達障害への理解が進む以上に
「困らせる子」=「発達障害にちがいない」という誤った認識がより広がっているように危惧しています。
そこで今日は、同じような行動を起こしても、原因が違うんだよ、だから対策も違ってくるんだよ、という事に触れてみたいと思います。
授業中じっと座ってられない子。どうしてなの?もしかして発達障害?
自閉症の子たちが授業中に座っていられない/そわそわする理由
アスペルガー症候群や自閉症の子の多くは、教室の中で起こっていることに「不安」があるとその場から離れずにはいられなくなります。
例えば、先生の話が難しすぎてわからなかったり、授業で行われてることに見通しを持てなくなると、不安でその場から離れたくなります。ひどい場合だとパニックを起こす事もありますよね。
また、感覚の問題を抱えている自閉症の子供たちも多いので、例えば聴覚に過敏さがある子は教室のざわざわした音にたえられなくなったりしたら耳ふさぎをしたり、パニックになったり、その場から離れようとしたりもします。
そして、自分の体の位置情報を得る固有感覚や体のバランス感覚を司る前庭感覚を感じにくい子供たちは、椅子に座っててもそわそわ、もぞもぞし続けます。
これは、「体を動かしたい!」という感覚を得るための要求からくる行動なんです。なので、そわそわ・もぞもぞでも足りない場合は、立ち歩くこともあります。
私達でも心地いい感覚は「もっと感じたい」と思いますよね。そんな風に、固有感覚や前庭感覚を「もっと感じたい」という行動なんですよね。(自閉症の感覚の問題について詳しくはこちらの記事をぜひお読みください↓)
知ってください!自閉症の人の不思議な感覚の世界 - ひろげていこう 発達障害のWA!~「困ってる子」という視点からの支援~
このように、自閉症の子供たちが立ち歩く行為は、その子たちがいる「その場・その環境」に問題があるケースが多く、自分の身を守るためにその場から逃げる・離れる行為なんですよね。言い換えると、「環境」を整えることで、自閉症の子たちの座っていられない行動は減るんですよね。
ADHDの子たちが授業中に座っていられない/そわそわする理由
では、ADHDの子たちはどうでしょう。
ADHDの子たちは、その名が示す通り多動であったり、注意散漫であったり、衝動的であることが座っていられない原因ですよね。
行動だけじゃなく、目も耳も多動なので、他の人たちよりも外の情報をたくさん取り入れる傾向にあります。
また、一点に注意を注ぐのではなく、あちこちに注意を注いでしまう注意散漫さも手伝って、さらに情報の獲得は加速度的に増えていきます。
そしてそこに衝動性も加わって、目や耳から得た外の刺激に対し、本人の意思とは裏腹に体が先に動いてしまうんですよね。
このことからわかるように、ADHDの子供たちは「外からの刺激」に動かされています。自分の意思で動いてるわけではないんですよね。
だから行動を起こしてそれを指摘あるいは叱られて「しまった」という経験がとっても多い子達で、自己否定や自己肯定感がとっても低かったりする心のケアも必要としている子たちなんですよね。
なので、動いてしまったことを叱るんじゃなく、「外からの刺激」を減らしてあげる対策が必要なんですよ。
無意識に刺激に対して不適切に動いてしまう」その「刺激」の対策です。
叱ったら、その場は収まるでしょう。でも「その場限り」を続けることは、この子たちを追い込むことです。なので長期的な視点を持って向き合うのが必要な子達でもあります。
自閉症の子とADHDの子。同じような行動でも理由が違う
わかりやすくいうと、教室の外で大きな音が起きた場合
- ADHDの子は、その音に吸い寄せられるようにそっちに向かってしまう。
- そして自閉症の子たちは、その音の正体がわからなかったり、いつも起こらないはずのことが起こることで不安になってその場にいられなくなる。
じっとしていられない理由がこんなにも違うので、「じっと座っていなさい!」の声掛けで済ませようとするんじゃなく、その子一人一人にあった配慮(合理的配慮)が必要なんですよね。
発達障害に違いない」と決めつけられる子供たちが座っていられない/そわそわする理由
では最後に本当は発達障害、とりわけADHDではないのに、「ADHDに違いない」と決めつけられる子たちの「じっとできない理由」を考えてみたいと思います。
もう細かい説明は不要だと思いますが、昔に比べると、今の子供たちは「体を動かす機会」がめっきり減りましたよね。公園は姿を消し、はらっぱで駆け回る経験もなかなか日常でできなくなり、ゲームやスマホで遊ぶ機会も増え、また交通量が増えた影響もありベビーカーや抱っこの機会が増え・・・ほんとあげるときりがないですよね。
こういったことが影響して、今の子供たちは昔に比べると体幹を支える筋力が極端に弱くなっているんです。だからそもそも、姿勢よく座り続けられる時間が昔に比べ短くなっています。
でも授業時間が短くなったわけではないので昔の子がなんなくできた「姿勢正しく座る」ということにも努力が必要になります。つまり余計なリソースが「座る」という行為に使われてしまってるんですよね。それじゃ、集中力も下がるわけです。
体を動かす機会が減ったことは、「体幹を弱さ」という長期的な影響だけでなく、日ごろの「集中力」にも影響します。
よく映画館で映画を見てると、最初はみんなじっと座ってみているのに、だいたい同じころから大人も子供もモジモジしだしますよね。あれってね、脳が「今体を動かしたい!体を動かして脳のスイッチを入れたい!!!」っていう警告なんですよね。
このことは、教室でも起こります。
運動したりして体を動かしたあとだと、脳は目覚めてます。集中力が増してる状態です。でも、体を動かすことが不十分のまま椅子に座ると、脳が「スイッチを入れるために動きたい!」となるわけです。
だからモジモジモゾモゾが始まります。
本来ならそこで体を思う存分動かすと脳が目覚め集中力も増し、授業にも参加する体勢が整うんですが、「じっとしなさい!」と言われ椅子にじっと座ることを余儀なくされると、脳のスイッチはオフになり、授業を聞くどころではなくなるんですよね。そしてまたモゾモゾしだす・・・の繰り返しになるわけです。
講演会なんかに行くと、講演者途中で、「はい、みなさん立って、ちょっとストレッチしましょう」ということよくありませんか?あれなんかまさに、モゾモゾしだした集中力の弱まった人たちに体を動かす機会を与えて脳をスイッチオン!にしてるわけなんですよね。
このことからもわかるように、モゾモゾしだす子、椅子を前後にロッキングしてしまう子に対しては、「やめなさい」「じっとしなさい」ではなく、体の「動きたい」要求にこたえることで解決するんですよね。
例えば、授業の中ほどにストレッチを取り入れるのもいいですし、そのモゾモゾしてる子に「このプリント配ってくれるかな」などさりげなく動く機会をあげたりするのもいいかもしれませんね。
もっと長期的に考えると、休み時間を増やしたり、体を動かす機会を毎日の生活に取り入れるのが有効な対処方法なんだと思います。
「この子は授業中落ち着きがない。きっとADHDに違いない」と決めつけないで、
- 「この子の中でどんな事が起こってるのかな?」とまず「行動」という結果で判断するんじゃなく「原因」探しをはじめ、
- さらには「その原因を引き起こす要因」(いわゆるABC分析ですね)に向き合っていただきたいな、と思います。
まとめ
いわゆる「問題行動」を起こす子たちを、「困らせる子」「厄介な子」「手を焼かせる子」ではなく「困ってる子」なんだよ、という視点で向き合う事の大切さ、おわかりいただけましたか?
最後に説明した「集中力を増やすために授業の前に体を動かしましょう」というのは、ADHDの子供たちにも自閉症の子供たちにも有効ではあります。
だけど、感覚の問題を抱えている自閉症の子供の中には、日中の過度な運動や刺激の多さのせいで、夕方かんしゃくを起こしたり、夜に興奮して全く寝られなくなる睡眠障害の原因になったりもするので、注意が必要だということを付け加えておきます。
「その困ったには、こうすればいいよ!」といった万能の対策が全ての発達障害の子供たちに有効ではないことが、発達障害の理解を遅らせてる要因でもあるんですよね。だからこれからも、できるだけたくさんの向き合い方について触れていきたいです。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。